千枝雑考

寄稿 みつまつ塗装 三松健次

古来の神社建築

 日本では六世紀後半に中国・朝鮮半島から仏教建築が伝えられたが、それ以前には日本固有の神社建築が有った。

 伊勢神宮の「神明造」・出雲大社の「大社造」・住吉大社の「住吉造」などの各社殿が古い形式を伝えている。

 これらに共通することは、イ)屋根は切妻である ロ)床を高く張る ハ)屋根瓦や土壁を用いない ニ)柱が掘立てである ホ)組物を用いない へ)軒や屋根を反らせない・・・などである。しかしながら三社に見られる形式がどこまで日本固有の形式なのか確定することは難しい。仏教建築伝来以前にも中国・朝鮮半島の建築様式が入っていたことが考えられるし、中国・朝鮮半島と日本で、それぞれ個別に同じような建築様式が存在していた事も無いとは云えない。

 かつて神は、人里近く一つの土地に常住するのではなく、祭りの時にだけ来臨するものであったから、その時にだけ神殿を用意すればよかったので、柱の足元に土台を入れた形式はそのための移動可能な神殿の名残と考えられる。この点伊勢・出雲・住吉などの神殿は大規模なものであり、柱を掘立てとしながらも土地に定着させたものであり、常住する神のための宮殿として造られたと考えられる。

 

※塗装

 古代の寺院建築は、外部に丹・弁柄・あるいは朱などの赤色塗料を主とし、連子窓に緑青、肘木・桁・垂木の木口に黄土を塗るのが通例であったが、それがやがて神社建築に及んだと思われる。こうした塗装は装飾であると同時に木材の防腐・防蝕のためでもあった。

 中世以降、寺院建築でも塗装をせずに素木(しらき)のままとしたり、あるいは木口にだけ胡粉(ごふん)を塗ることも行われた。

 

※難しい漢字「読み」と「意味」

相決(あいじゃくり)~ 板傍を厚さ半分ずつ欠取り合わせる矧ぎ方。

校木(あせぎ)   ~ 校倉に組む材木

豕叉首(いのこさす)~ 神社等の妻にある字形を言う

猪目(いのめ)   ~ ハート形に似たくり形で器物の飾り

入側柱(いりかわ) ~ 建物の外壁より一間内側に立つ柱

笈形(おいがた)  ~ 大瓶束の左右の飾りを言う

筬(おさ)     ~ 堅子を堅繁に入れる。これに横子を上下に一筋程度入れたものを筬欄間という

丸桁(がぎょう)  ~ 化粧垂木を受ける一番外の桁

鎹(かすがい)   ~ 合わせ目をつなぎ合わせるために打ち込む  形の大針

冠木(かぶき)   ~ 内柱の上部を貫渡す太い横木

鎬(しのぎ)    ~ 隅木等の背峰等を言う。(刃の鎬を削る等)

木連格子(きづれ) ~ 妻飾りで格子の裏に板を張ったもの

懸魚(げぎょ)   ~ 破風に付ける装飾板

蔀戸(しとみど)  ~ 格子組の裏に板を張った上下2枚の戸

鴟尾(しび)    ~ 瓦の装飾で大軒に付ける後に鬼瓦となる

錣葺き(しころ)  ~ 錣屋根、屋根の下に別の屋根があるもの。ヨロイのシコロに似ていることから。

大瓶束(たいへいつか)~横断面は円形、頭に桝形を乗せ下方は細くなり梁上に止まる束

木賊葺(とくさぶき)~ 木賊板で葺いた屋根。薄板であるが「柿板」より厚く、「栩板」より薄い。(厚さ4.5~6ミリ。長さ350ミリ,巾105ミリ程度)

半蔀(はじとみ)  ~ 蔀の腰の部分が壁をなりその上部半分を吊り上げる

端喰(はしばみ)  ~ 板の反りを防ぐために木口にとりつけた狭い木

桔木(はねぎ)   ~ 軒先をテコの原理ではね上げ支えている材

宝珠(ほうじゅ)  ~ 玉状の飾りもの

架木(ほこぎ)   ~ 高欄の一番上にある笠木。現在は円形断面の横木。

裳階(もこし)   ~ 建物の軒下に差し掛けて作った屋根。又は屋根が覆う区画

木瓜型(もっこうがた)~ キク科の植物の紋所の形

連子窓(れんじまど)~ 縦・上に一定の間隔をおいてとり付けた格子

 

※規矩術(きくじゅつ)

木材をどう加工して、どう組み合わせるかを計算する事。

  “規”はコンパス、“矩”は指(差)矩をいう。

 

・三種の神器~ 指矩(さしがね)・墨壺・手斧(ちょうな)又は槍カンナ

・水という字になるように飾り立てる

・指矩には表目と裏目が有り、「表目」~直角二等辺三角形の一辺の長さ。
 寸→分→厘→毛→糸の単位。1.4142は  である。

・「裏目」~表目を  倍した直角二等辺三角形の一番長い辺。

・丸目 ~ 短い方の裏目に刻んであり、円の直径を測ると円周の長さとなる

 

※昔から有る接着剤

膠(にかわ)  ~ 獣、魚類の骨・皮・腱・腸などを煮て、液を乾かし固めたもの

続飯(そっくい)~ 米粒を練って作るのり

 

※斗供(ときょう)

組みもの全体をいう。柱と横架材を結ぶ木組み。

 柱上又は台輪上にあって、丸桁(がぎょう)を上方へ持ち上げたり、前方へ持ち出すと共に、丸桁にかかる屋根の荷重を分散して指示し、柱へ伝える役割をもつ。主に斗・肘木・丸桁によって構成されるが、これに尾垂木・軒支輪・軒天井・拳鼻(こぶしばな)などが加わる。

○組物の形式

船肘木→大斗(だいと)肘木→平三斗→出三斗→出組(一手先・二手先・三手先)

①舟肘木 ~ 柱上に直接肘木を置いて丸桁を支持する

②大斗肘木~ 大斗上に肘木を置いて丸桁を支持する

③平三斗 ~ 大斗上に肘木を置き、斗を三個並べ、丸桁を支持する

④連三斗 ~ 平三斗の外方の肘木を延ばし、斗を一個分余分に並べる

⑤出三斗 ~ 平三斗に直交して肘木を前方へ出し斗を置く

⑥出組  ~ 出三斗の前方へ出た斗の上に、肘木を側柱筋と平行に置き、三斗を並べ、丸桁を支持。 斗一個分出ることを「一手出る」と云い、一手出た所が一手先となる。

二手先 ~ 出組より更に一手多く前方へ出るもの。二手目は肘木で持出す場合と、尾垂木で持ち出す場合が有る。一手目には軒天井、二手目には軒支輪が入る。

三手先 ~ 二手先より更に一手出る。三手目は尾垂木で持ち出すのがふつうで、そこに軒支輪が入る。

○斗の種類  

位置や形状による

大斗 ~ 柱又は台輪上のもの

方斗 ~ 十字に組まれた肘木上の交差点上にあるもの

巻斗 ~ 肘木上のもの

鬼斗 ~ 出組以上で隅行方向の肘木・尾垂木上に乗るもの

間斗 ~ 中備の間斗束上のもの

皿斗 ~ 一般の斗にはなく、斗繰の下に付けた一種の繰り出し又はそれの有る斗

中備 ~組物と組物の中間に置かれるもので間斗束を用いる。通肘木を受ける。

斗繰 ~斗の加工状態で、下方部曲面をもって細くなっているさま。

 

○肘木の種類  

使われる位置と形状による

枠肘木 ~ 大斗上で十文字に組む

秤肘木 ~ 手先肘木や尾垂木上の斗の上に、天秤状に乗る

通肘木 ~ 組物間を横につなぐ桁状のもの。軒天井が架かるものを「天井桁」、

軒支輪が架かるものを「支輪桁」という。

繋肘木 ~ 内部を通り抜けて反対側の組物とつながるもの。

      両側は手先となって出る

実肘木 ~ 丸桁の下にあるもの

絵様肘木~ 絵様の付いたもの

花肘木 ~ 絵様肘木の一種で、上に乗る斗と一体化したもの

挿肘木 ~ 大仏様のもので柱に差し通して手先となる+-

根肘木 ~ 禅宗様のもので柱に差して虹梁を受ける

雲肘木 ~ 雲のような形をしている肘木。和様はシンプル、禅宗様は繊細、

大仏様は豪快である。

 

※架構(かこう)

建物を構成する骨組全体をいう

母屋部分の架構としては、叉首組・梁と束・虹梁蟇股・紅梁大瓶束など。

①叉首組  ~叉首台(梁)の上に叉首竿を合掌(三角形)に組み、

       斗・肘木を置いて母屋桁を受ける。

②虹梁蟇股 ~虹梁上に板蟇股を置き、斗・肘木・を置いて棟木や母屋桁を受ける

③虹梁大瓶束~虹梁上に大瓶束を立て、斗・肘木を置いて棟木・母屋桁を受ける

○懸魚(げぎょ)

  棟木や母屋桁の木口を隠すために取り付けられた板状の装飾材

 

○位置による分類

  破風の「拝み」(左右の板が合う頂点)に付くもの「拝懸魚」

  破風の途中に付くもの「降懸魚」(くだりげぎょ)

  唐破風の拝みに付くもの「兎毛通し」(うのげとうし)

 

○形式による分類 

猪目(いのめ)~ハート形の切込みが有る

蕪懸魚(かぶらげぎょ)~輪郭は猪目懸魚と同じであるが、猪目は無く、下部に左右の巻き込みに合わせた彫り込み線が何段も付く

三花(みつばな)~蕪を三個合わせた形

梅鉢(うめばち)~五角形に似た簡単なもの

雁股(かりまた)~先が二股に開き、その内側に鏃(やじり)が有るもの

 

※軒廻り

 軒はふつう垂木で持ち出されるが、垂木を使わず厚板で持ち出す「板軒」も有る。垂木を用いた軒の場合は、その配置方法によって、①平行垂木 ②扇垂木(禅宗様)③隅扇垂木(大仏様)が有る。垂木軒・板軒のいずれの場合でも、一段だけ(一軒)と二段から成る(二軒)とが有り、垂木軒には三段から成る(三軒)も有る。二軒の場合、奥(下段)を「地軒」、軒先(上段)を「飛檐軒」といい、三軒の場合は飛檐軒が二段に成る。

 

○垂木

 垂木は「地円飛角」といって、地垂木は円形断面、飛檐垂木は角形が多い。垂木は見えるか見えないかによって、「化粧垂木」、「野垂木」に分ける。

・打越垂木~向拝や流造本殿の庇において、本屋の地垂木・飛檐垂木をそのまま延ばした長い垂木。

・枝外垂木 ~妻の指棟と桁の間に有る急勾配な垂木。

・「なまず垂木」 ~なまずのように垂木が曲がっている

・疎垂木(まばら)~垂木と垂木の間が長く、垂木の数が極めて少なく並んでいるもの

・繋垂木(しげ) ~密接に並べた垂木

・「枝割り」(しわり)~垂木の間隔に応じて柱と柱の間隔など他の部分の寸法を決め            

           るという「垂木ありき」の考え方

・隅木(すみぎ)~入母屋造・寄棟造・宝形造などの隅に有る45度方向の材で、二

          軒の場合は垂木と同様に「地隅木」・「飛檐隅木」とから成る。

 

※長押

取付ける箇所による分類

・内法長押     ~鴨居の上にあるもの

・腰長押      ~壁の中ほど、窓の下にあるもの

・切目長押     ~敷居の下、縁板の上にあるもの

・地長押(地覆長押)~柱の最下の、地面の近くに用いたもの

・縁長押      ~縁板の上にあるもの

 

※天井の種類

・組入(くみいれ)天井 ~天井桁の間に組子を格子状に入れたもの

・格(ごう)天井    ~格縁を粗く格子状に組んだもの

・小組格天井      ~格天井の格間(ごんま)に細かく格子を組む

・折上(おりあげ)天井 ~周囲の長押の上から円く折上にして張る天井

・竿縁(さおぶち)天井 ~一方向に竿縁を通し、天井板を張ったもの

・化粧屋根天井     ~垂木をそのまま見せる天井

 

※五輪塔

・墓塔あるいは供養塔として建てられる

・「逓減率」(ていげんりつ)

 塔は上に行くほど細くなる

 

 

 

 

※読みと意味

・拳鼻(こぶしばな)~ 禅宗様で丸桁下の肘木に組み込まれるもの

・手挟(てばさみ) ~ 向拝や神社本殿の庇の組物において、本家や母屋との間に繫虹梁を入れない場合に用いる。 

・絵番付      ~ 各部材を合わせるための絵印

・継手(つぎて)  ~ 同じ方向に木をつなぎ合わす

・仕口(しくち)  ~ 直角でも斜めでも良く、木と木を結ぶ

・束柱(つかはしら)~ 屋根を支える小屋組の内、短い柱をいう

・真墨(しんずみ) ~ 部材の中心線

・長押(なげし)  ~ 柱と柱をつなぐ水平材 

・丸桁(がぎょう) ~ 桁の一番外のもの

・棟桁(むなげた) ~ 建物の中央を通る桁で一番高い所の桁

・向拝(ごはい)  ~ 神社の正面に出張った部分、参詣人が礼拝する所

・蟇股(かえるまた)~ 虹梁と虹梁の間に有り、上の虹梁を支えるために使う梁を支える役割と装飾性を併せ持つ

・母屋柱(もやばしら)~ 棟桁が上に乗る柱

・軸部(じくぶ)  ~ 建物の壁面部分、軒桁までで、その上は小屋組という

・幣殿(へいでん) ~ 本殿と拝殿の間にあって、幣帛を奉る所

・ごひら      ~ 柱材の断面が正方形ではなく長方形のもの。

            特に横広の場合を「鏡柱」という。柱は円柱と方柱(角)に分けられる。

 

※貫の接ぎ方

柱の中で継いでクサビを打つ。
柱と柱の間で継ぐ時は、柱に近い方が下となる様継ぐ

※長さの測り方

1)芯芯 2)内内 A)京間(関西)B)田舎間(関東)

※木材加工の逃げ(遊び)は横方向に作る

※檜皮の数え方

駄(だ)馬の背の左右に振り分ける量として

 

○雀と大工は軒で泣く

○1キリ2カンナ3チョウナ

○子守り2年 研ぎ10年

△徳利の注ぎ口は、「宝珠」を模している